何もかもが滑稽

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映画、漫画、アニメなどが好きで、その事についての感想、思ったことなどを書いています。 それ以外の事も時々書きます。

映画「千年女優」感想 ちょっと難解だけどそれがいい アニメ映画としてもクオリティがとても高い

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どうもきいつです


アニメ映画「千年女優」観ました

第5回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で
「千と千尋の神隠し」と同時に大賞を受賞した2002年の作品
国内外で高い評価を獲得しているアニメ映画です

数十年にわたり
1人の男性を思い続けた女優の姿を時間や空間を超えて描かれています

「パーフェクト・ブルー」「パプリカ」などの今敏が監督を務めています

 

あらすじ
小さな映像制作会社の社長の立花は
かつて一世を風靡した大女優の藤原千代子のドキュメンタリーを作るため彼女の邸宅を訪れる
30年目に突如として銀幕から姿を消していた彼女は
立花が持参した鍵を見て思い出を語りはじめる

 

感想
現実と虚構が入り混じった映像がとても素晴らしい
しかし、物語に掴み所が無くちょっと難解なイメージでした
それも含めて面白い作品

 

「パーフェクト・ブルー」「パプリカ」
などと同じで今敏らしい
カオスな世界観の作品でした

ただ、これらの作品に比べて
とても抽象的に感じました
いまいち掴み所が無く
観終えた直後は消化しきれない

この映画は何を伝えたかったのか?
その答えになかなかたどり着きません
しかも、観た人によって解釈が異なってくると思います

人によれば
意味わからんからつまらん
って思ってしまうかもしれませんが
ちゃんと意味が込められた映画だと思うし
考察が楽しい映画だとも思います

 

今敏と言えば
現実と虚構が入り混じったカオスな映像表現でお馴染みですが

本作は他作品に比べて
現実と虚構というのが
より強調されているように感じました

これは抽象的だからこそ
ストレートにその表現が伝わってくる
というのがあると思います


例えば「パーフェクト・ブルー」は
現実と虚構の表現を
サスペンスの仕掛けとして機能させていましたし

「パプリカ」の場合は
SF的な世界観や物語の中心に
現実と虚構というテーマがあったんだと思います


ただ、本作はその表現が無かったとしても
描ける物語だと思うんです
1人の女性の女優としての人生と
1人の男性を想い続ける人生
それだけを描いた物語なので

明確にその表現が何のためにあるのか
それがいまいちわからない
でも、この映画はその表現が無いと完成しない映画でもあるわけです

だからこそ
その表現が意味するものは何か
という事をより考えさせられる

現実と虚構がごちゃまぜになった
この世界に何か意味が込められている
というのが伝わってくるんです

 

とは言え
やっぱりこの映画のメッセージは難解で言葉に表すのも難しいですよね

結局どういうことだったのか?
と答えがなかなか出せない


重要なのはラストの千代子の言葉だと思います

「あの人を追いかけてる私が好きなんだもの」
という言葉

単純に受け取れば
恋をしてる自分が好き
演技をしている女優としての自分が好き
というちょっとナルシスト的な意味に受け取れるんですが

それだけでもないと思えます


そもそも千代子は
ただ恋をした男性を追っていただけなのか?
この映画を観ていると
あまりラブストーリーのようには思えない

千代子の追っていた鍵の君は本当にいたのかどうか
それすらも疑問に思えてくるんですよね

てか、千代子の語る過去の思い出は本当だったのかどうか
それも怪しくなってくる


そして、この映画では
映画、女優というのもキーワードだと思います

千代子の回想を
現実の過去と彼女が女優として演じた映画の世界
それが入り混じって表現されています
現実とフィクションの境界が曖昧で
どこまでが現実なのかをなかなかつかみ取れない


千代子のファンでもある立花の目線から見ても
ファン目線のフィルターを通して見る彼女の姿なので
それが真実の彼女の姿なのかどうかはわかりません


それらをひっくるめて
この映画は嘘というものの重要性を描いているんじゃないのかな
と思えました

嘘と言っても
人を騙す事ではなく
フィクションの世界という事です
映画はもちろんですし
小説、漫画などの人が作りあげた世界

それは創作物でなくても
妄想や現実逃避も同じだと思う

そんな嘘の世界の中にある真実を描いているんじゃないのかな
と感じました


ラストの千代子の言葉も
自分が好きという事より

現実の自分も虚構の自分も両方とも本当の自分
という自分自身への肯定の言葉
だったんじゃないでしょうか


千代子の場合は作り出す側の人間でしたが

受け取る側も同じで
映画を観たり漫画を読んだりしても
それをただの嘘っぱちだと思ってるわけではなく

その嘘の世界の中にある真実を見ようとしてるんだと思います

そういうものの中にこそ
生きるために重要な何かがあるんじゃないかと思うわけです

この映画は
そういう嘘の世界、フィクションというもの
それの存在意義や必要性を表現しているんじゃないのか

人間にとってそれらが
とても重要なものだと感じさせてくれる作品だと思いました


他にも考察できるような事は
いろいろあると思いますけど
人それぞれ解釈が違うと思いますし
いろんなサイトでも考察されてるんで

僕はこの辺でやめときます
詳しい考察をしてる人もたくさんいるんで
これ以上自分が言える事は無いなと思えるし

 

そんないろいろ考えたくなるのも
この作品が魅力的だからだと思います

どんなに深い意味を込めていても魅力が無ければ
その作品について深く考えようとも思いませんからね


やっぱりアニメとしてのクオリティはとても高い映画です

ただ絵が上手いとか背景が細かいとか
そういった部分だけじゃなく
アニメだからできる表現というのもしっかりあるし
物語の進め方も引き込まれるものがあります

場面の移り変わりなんかはとても綺麗でスムーズ
こんなカオスな世界を
滞りなく一つの世界として違和感なく見せています

画面の中はいろんな要素が入り混じってめちゃくちゃなはずなのに
最初から最後まで引っかかることなく観れます


平沢進が担当する音楽もとても魅力的で
この世界を引き立たせていました


この難解でわかりにくい内容も
アニメ映画としてのクオリティの高さがあるからこそ成り立っているんだんじゃないでしょうか

 

いろいろ考える事もでき
アニメ映像もとても素晴らしかったです

ちょっとわかりにくい映画ですけど
深く観ていけば興味深い作品
とても面白い映画でした

 


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