何もかもが滑稽

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映画、漫画、アニメなどが好きで、その事についての感想、思ったことなどを書いています。 それ以外の事も時々書きます。

映画「よこがお」感想 語りすぎないからこそ想像力を掻き立てる

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どうもきいつです


サスペンス映画「よこがお」観ました


不条理な現実に巻き込まれた1人の善良な女性の
絶望と希望を描いたサスペンス
無実の加害者へと転落していく主人公の姿が
描かれていきます

「淵に立つ」などの深田晃司が
監督を務めています

 

あらすじ
訪問看護師の市子は周囲から熱く信頼されていた
なかでも訪問先の大石家の長女の基子には
勉強を見てやるほどの中で
基子は市子に憧れ以上の感情も抱いていた
ある日、とある事件をきっかけに市子の人生は
狂い始める

 

感想
とても暗く重苦しい内容
でも、すごく引き込まれる映画でした
気持ちのズレが生み出す悲劇は
観ていてつらい…
絶妙な人間の感情を描いていた作品でした
ただ、ちょっとチープさも感じてしまう作品

 

予告でこの作品を知って
面白そうだったので観に行ってきました

はじめのイメージ通りの
なかなか重たい映画でしたね

観終えたときは何とも言えない気持ちに
なってしまいました


人の様々な感情を複雑に描いていて
そこから生まれる理不尽を見せてくれる
そういうのを見ているととてもモヤモヤしますし

この映画を普通のミステリーやサスペンスとして
観てしまうと
劇中の事件や出来事を
全て描き切っているわけではないので
消化不良にも思ってしまう

ラストに関しても明確に何かが
解決するわけでもなく
こちら側に答えを委ねるような終わり方です

なので、後味がそんなに良くない映画かもしれないですね


でも、その中で描かれている人間ドラマは
重たいながらも心に刺さるものがあるし
主人公の市子もとても魅力的だと思う

説明が極端に少ない作品ではあるんですが
物語はシンプルでわかりやすく
見せ方も上手くてとても観やすい映画でした

登場人物のバックボーンや
人柄、その時の状況など
言葉では全然説明がありませんが
映画を観ているとなんとなく
それぞれの人間がどういう人間なのかが
わかってくる


作品の構成は
市子が甥が起こした事件により
不幸に転落していく過去のパートと
市子を陥れた基子へ復讐を図ろうとする
現在のパートに分かれていて

それを交互に画面を切り替えながら
物語が進んで行きます

過去と現在に行ったり来たりする
ちょっと複雑な構成ですが
そこに関してもとても観やすくなるように
工夫されていました

冒頭の始まりシーンで
市子が美容院で髪を染める場面で始まるので
ビジュアル的に現在の市子は髪を染めていると
印象づけられ

市子の姿を見るだけで
それが過去なのか現在なのかが
判断できるようになっています

なので、時間が切り替わっても
混乱するような事は全く無く
余計なところに頭を使わなくてすみます


そういうところを
わかりやすく作っているからこそ
人間の複雑な感情や言葉で語られない部分だけに
集中して観ることができたんだと思います


そして、話の流れ的には
とてもわかりやすい内容の作品なんですが

その中で描かれている出来事や
登場人物の内面なんかは
かなり説明不足なんですよね

特に基子なんて何考えているかわからない
変な女にしか見えないんですが

でも、よく観ていれば
細かい演出や会話のやり取りなどで
人間関係や状況がなんとなく見えてきます


喫茶店で勉強を教えている場面では
基子と妹のサキの市子への距離感の違いで
2人の市子に対する気持ちの違いが
感じる事ができます

サキにとっての市子はやっさしいおばさん
って感じの接し方ですけど
基子の場合は他人以上に好感を抱いている
というのが伝わってくる


市子と婚約者の戸塚の関係性も
ただ2人で雑談しながら歩いているだけなのに
なんとなく2人の関係性が伝わってきます


こういうのは
セリフや演出だけでなく
役者の演技力の賜物でもあるんでしょうね

それだけ本作には
演技力の高い役者が揃っていた
ということだと思います

 

そして、本作は
市子が理不尽な運命に翻弄される姿が
とても重要な作品なんですが
それと同じくらい基子の存在も重要だと思います

「よこがお」というタイトルは
横顔を見るとその反対側の顔が見えない
という人間の2面性を意味していると思う

だから、この映画では市子の
過去と現在の姿を交互に見せているんだと
思うんです

そこで描かれるのは
堅実に生きるも理不尽に不幸になる女性と
自分から全てを奪った人間への復讐に
憑りつかれた女性の姿

これだけでも見応えがあって
面白いんですが

基子の存在がさらにこの映画の面白さを
際立たせていると思います


市子の場合は
観る側に左右の横顔を
両方見せてくれるのだとすれば
基子は片方の横顔しか見せてくれない

その基子の見えない横顔を想像するのが
この映画の面白さなんじゃないかと思う


市子は主人公でこの物語の中心人物
ということもあり
彼女のいろんな面はほとんど映画内で
描かれきるわけです

それに対して基子は
感情もいまいち読み取りづらいし
やってることは支離滅裂にも思える

でも、細かい描写を追っていけば
彼女の想いもなんとなく掴めます


過去での基子は
ある程度ヒントもあるから
だいたいの彼女の気持ちは予測できるんですが
現代のパートでは
基子がほとんど登場しないんですよね
復讐後の彼女の反応も全く描かれません

だからこそ想像力が掻き立てられる

あの事件のあと基子はどんな気持ちだったのか
現在はどんな思いで生きているのか
復讐を受けてどう思ったのか
とかいろいろと考えさせられてしまいます


最終的には復讐が失敗に終わってしまった
という感じになってますけども
復讐は成功しているようにも思える

あの送られてきた写真を見て
いろんな意味で基子は
すごく傷ついたんじゃないのかな
とか想像してしまいます

事件の後、市子だけでなく
基子もすごく苦しんだんじゃないのかとも
思えますよね


そんな風に余白の部分を楽しめる
映画でもありました

 

ただ、ちょっと気になるとこもあって
なんかチープだな
と思ってしまうところがいくつかあります


まず、復讐の方法が
彼氏を寝取るって
ちょっと安っぽい感じがしてしまいました

なんかもっと他に方法が無かったのかな
とか考えてしまった

2人が結婚してるわけでもないし
付き合いたてのバカップルでも
ないですし
そりゃ別れることもあるだろと思う

それが復讐として
あまり成り立たないような気もして
ちょっと変に思ってしまいました

 

それと、マスコミやメディアの扱い方も
ステレオタイプで
ちょっと古臭さも感じてしまう

こういうマスコミやメディアの
問題点を映画の中で見せるという
意味も込められてるとは思うんですが

それの表面的な部分だけを
見せてるような気がします

確かにマスコミなどが
エンターテイメント的に事件を取り扱ったり
売り上げのために過剰な行動に出たり
問題点はたくさんあるし
僕自身もそういうのは好きじゃない

でも、この映画でのマスコミの描き方は
あまりにも一方的に思える
マスコミが悪の根源のようにも
見えてしまいます

でも現実はそう単純な問題でもないと思う
マスコミにも問題点はありますが
それを求めている側も存在するわけで


そういう問題も
ただ1面だけを見せるけじゃ
結局、マスコミとかとやってることが
変わらないんじゃないのかと
思うんですよ

人間ドラマを多面的に見せることは
できているんだから
こういった部分も多面的に見せることも
できたんじゃないでしょうか

 

ちょっと文句みたいなことも言いましが
面白い映画だというのは間違いないです

人間のいろんな感情を丁寧に描いている
とても素晴らしい作品だと思う
サスペンスというより
恋愛映画かもしれない

 


よこがお