何もかもが滑稽

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映画、漫画、アニメなどが好きで、その事についての感想、思ったことなどを書いています。 それ以外の事も時々書きます。

映画「レ・ミゼラブル」(2020年)感想 誰が悪い、誰の責任、とかではなく これは人々が目を背けてきた報い

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どうもきいつです


ドラマ映画「レ・ミゼラブル」観ました

ビクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台として知られ
現在は犯罪多発地区となっているパリ郊外モンフェルメイユで起きる
現代社会が抱えている闇をリアルに描いた社会派ドラマ
少年が起こした小さな事件が思いがけない騒動へと
発展していきます

モンフェルメイユ出身で現在もそ地に暮らす
ラジ・リの長編初監督作品で
第72回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞しています

 

あらすじ
パリ郊外のモンフェルメイユには低所得者や移民たちが多く暮らしており治安が悪かった
その警察署の犯罪防止班に新しく配属されたステファンは
同僚たちとパトロールするうちに複数のグループが緊張関係にある事を察知する
そんな中、イッサとういう少年が引き起こした些細な事件から
事態は取り返しのつかない大きな騒動へと発展していく

 

感想
どこか別の国の出来事で
映画の中の物語ではあるものの
これは他人事ではない話
子どもは大人の背中を見て育つ
形は違えどこれは日本でも起きていることだと思った

 

現代社会に切り込んだようなちょっと小難しそうな
雰囲気もある本作ですが
以前から気になっていたので観てきました

実際に観てみると
そんなに小難しい内容ではなくて
単純に現代社会から生み出された歪みが故の
悲劇を描いた作品

全く救いも何もなく
ただただ悲惨な現実を突きつけられるような内容だと思います

だからこそ現代社会について考えさせられるし
他人事ではなく自分の身に降りかかるかもしれない
という危機感も感じれる映画

 

まず、この映画が面白いのかどうかと言うと
別に面白い映画ではありません
エンタメ性はほぼ無いです

淡々とモンフェルメイユの現状を伝えている
といった内容だと思います

特に中盤あたりまではあまり掴み所が無くて
いまいちどういった方向へ進んでいく映画なのかも
あまりわからない状態が続き
ちょっと退屈に思ってしまうかもしれない

でも、途中から話が大きく動き出してきてからは
先の展開が気になるし
殺伐とした雰囲気や緊張感で
一気に映画の中に引き込まれていくので
そこからは退屈さは全くない

とは言え
ラストはすっきりしないし
何か救いがある物語でもないので
リアルな社会の現状を突きつけるという側面が
とても大きい作品で
エンターテイメント的な面白さは少ないです


これは2018年に日本で公開された「デトロイト」と
とても似ていますね
「デトロイト」の場合は実際に起きた出来事を
描いているわけですが
それを通して社会の闇や現代でも抱える問題を
突きつけるような作品になっていた

まるでドキュメンタリーを見ているような気持ちにさせるリアルな作風という点でも
本作と「デトロイト」は似てると思います

 

この映画を観た人たちは
主人公のステファンの感情移入して観ると思います
そして、ステファンがこの物語の中では
唯一の善意と言っていいです

ステファンはストーリー上も
街の外側から来た存在で立場的には映画の観客と同じ位地なわけです

そんなステファンとともに観客も
この街で起きていることを目の当たりにして
自分の知らなかった世界を知ることになる

正直言って
僕もフランスのイメージと言ったら
ニュースで見た暴動デモのイメージもありますが
基本は華やかでオシャレ
みたいな漠然としたイメージしかなく

この映画で描かれているような
貧困や移民の問題や治安の悪さのような
暗い現状というのは全然知らなかったくらい

この映画を観て感じたのは
フランスってこんな感じなんだ…
という自分の無知さ

 

そして、この映画からは
そんな現状から生まれてくる社会の歪みが
ひしひしと伝わってきます

本作を観てほとんどの人が感じるのは
ステファンと行動を共にしている
クリスとグワダに対する怒りや胸糞悪さ
だと思います

この2人、特にクリスは警察という権力を振りかざしかなり横暴な人間
観ていてすごくイラつくし嫌いになる

ただ、この映画では
そんな横暴な警察が悪なのかというと
そうではなく

この街ではいろんなグループが対立し合っていたり
そこに宗教的な価値観も入り組んでいたり
そんな状況に鬱憤がたまっている人間もたくさんいるわけで
街自体が収拾のつかない状態に陥ってしまっている

この現状には
明確な原因、明確な悪、明確な解決法なんて
存在しなくて
そんな治安の悪い場所で警察が狂ってしまっていくのも当然とも思える

で、なぜそうなってしまったかと考えると
臭いものには蓋をして見て見ぬふりをしてきた社会
問題の解決を先送りにして後回しにしている社会
その積み重ねの結果がこの現状だと思う

誰が悪いのか? 誰の責任なのか?
そんな次元の問題は通りこして
どうしようもない問題に膨れ上がってしまってるんです

それが、子供たちの若い世代にも影響を及ぼして
悪循環が続いていく


こんな収拾のつかない状況は
結局、警察も力でねじ伏せるしかなくなって
強引で無理やり治安を保たなければならない

そのせいで変に自分が力を持っていると思ってしまう輩が警察の中にも生まれる

そして、その結果
怒りや恨みが溜まり溜まって
本作のラストのような悲惨で虚しい結末を生んでしまう

 

本作で重要なのは子供たちの存在で

最終的に子供たちの不満や怒りが爆発して
あのような暴力的な行動に及んでしまうわけですが

これは単純に子供を怒らせたら怖いな
って話ではなく
子供は大人の背中を見て育つ
というところにヤバさがある

よく最近の若者はどうだとか
最近の子供はおかしくなってきている
とか言いますけども

そうなってしまう社会を作っているのは大人
もっと言えばそれを築き上げてきた先人たち

子供たちはそんな大人の背中を見て育ち
大人の作った社会に順応して育っていく

大人たちが生み出した問題のしわ寄せが
子供たちに影響を及ぼして
結果的に子供たちが歪んでいく

言わば大人の鏡に映った姿が今の子供の現状

他人事のように
最近の子供はおかしいとか言う人も多いですが
この問題はそのままお前たち大人たちの問題でもあるぞ
と言いたい

 

この映画でも
大人同士がいがみ合っていたり
自分の保身のために横暴な態度をとったりしている

この現状では誰が悪いとか何が原因だとかは
言えないですが

子供たちはそんな大人たちを見て育ち生きて行くのだから
最終的にあんなにも暴力的で不毛な行動を選択してしまうのは当然とも言えます

 

最後は
火炎瓶を持つイッサと銃を構えるステファンが
睨み合い幕を閉じてしまいます

どちらに転ぼうがいい結末を迎えるわけがなく
そして、このラストは完全に観客に丸投げのラストで
納得いかない人もいるかもしれない

でも、そんな丸投げなラストだからこそ
この社会に対する問題提起になっていて
その問題は一人一人が考えなきゃいけないことでもある

こんな問題には明確な答えなんてあるわけがなく
だからこそ一人一人が考えなきゃならないことなんですよね


遠い国の現状で
日本人としては漠然としたことかもしれないけど
同じような問題は日本も抱えているわけで
やっぱりそこを無視し続ければ
最終的にはこの映画での出来事は起きうることだと思います


この映画では
そんな現実を突きつけられて
とても勉強になったし考えさせられました

 

観ているのが辛くなるような映画ですが
この映画を観て損はないと思う

最後の子供たちの姿には社会の歪みを感じて
そんな世界はどうにかしなきゃならない
どうにかするには一人一人が問題に向き合って
目を背けないことが大事
そう思わされました

 


レ・ミゼラブル 全4冊 (岩波文庫)