何もかもが滑稽

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映画、漫画、アニメなどが好きで、その事についての感想、思ったことなどを書いています。 それ以外の事も時々書きます。

映画「スーサイド・ショップ」感想 ユーモアとテーマが噛み合ってないような気がする

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どうもきいつです


アニメ映画「スーサイド・ショップ」観ました

ジャン・トゥーレの小説「ようこそ、自殺用品専門店へ」を原作に作られたアニメ映画
根暗な自殺用品専門店に赤ちゃんが生まれ
それをきっかけに変化していく家族の姿を
ブラックユーモアを交えて描いています
2012年フランス、ベルギー、カナダ合作の作品

「髪結いの亭主」のパトリス・ルコントが
自身初のアニメーション作品として監督を務めています

 

あらすじ
自殺者が後を絶たないとある大都会
その街の片隅に自殺をするための道具を売る専門店があった
店を営むドヴァシュ一家はネガティブ思考の暗い家族
そんな一家に男の子が生まれアランと名付けて育てられ
やがてアランの存在により家庭内の雰囲気が少しずつ変わり始める

 

感想
世界観や雰囲気はとてもよくて引き込まれるような魅力がありました
独特な画風のアニメにも魅力を感じれます
でも、内容は少しブレていると思う
ユーモアとテーマが相反していて
いまいち納得できないようなストーリーでした

 

アマゾンプライムビデオで見つけ
気になったので観てみました


なんか雰囲気はとてもいいアニメですね
こういうアニメが好きな人は大好きだと思う

ティム・バートン作品とかアダムスファミリーみたいなのとかが好きな人なら
本作も好みの作風なんじゃないでしょうか

それに、本作はミュージカルでもあって
陰湿で暗い世界にミュージカルという
なかなか面白い世界観が生まれています

かなり独特な作風の作品で
それがこの映画の最大の魅力でもあると思います


背景の表現なんかも
すごく暗くて嫌な雰囲気が漂っている

この物語の舞台が明確にどこの国なのかわからないんですけど
どこか日本のような雰囲気もあったりします

自殺大国の日本をモチーフにしていたりもするのかもしれません


そんな本作は自殺がテーマの一つでもあり
とにかくみんな自殺する

どんな辛いことがあったのかは不明ですが
この街自体がそんな空気に飲まれていて
みんな暗い顔をして自殺を望んでいます

ただ、暗い世界で自殺をする人々を描いているわりには
意外と重い映画ではないんですよね

むしろ、どこかコミカルでポップな雰囲気も漂っている

全体的にもブラックユーモアの効いたコメディー作品です

そもそも、自殺用品を売る専門店という設定の時点でちょっとおかしさがあります

自殺用品を紹介する場面では
少し自殺を茶化したような感じもしますし

自殺をしてしまう人たちも
悲しさや虚しさよりも滑稽さが目立っていて
可哀想と言うよりかは笑えてしまう

ドヴァシュ一家も過剰に暗い人たちに描かれていて面白いし
言動もやたらひねくれていて
そこに皮肉が込められているのも感じれます

ドヴァシュ一家それぞれのキャラクターにも魅力があるし
それがこの映画の面白さとも繋がってる

 

とは言え
雰囲気だけならそれなりに魅力がある映画なんですけど
中身はそんなにかなって感じでした

ストーリーに関してもメッセージ性に関しても
ちょっと微妙だと思います


まず、ストーリーの話をすると
特に面白い展開があるわけでもなく
淡々と進んでいくだけなのでちょっと退屈

ミュージカルや絵の雰囲気で持ってるけど
それを抜きにしたら大したことのない内容です

暗い家族が末っ子の影響で明るくなってハッピー
ってだけのストーリー

一家の深い部分に触れるエピソードは特にないし
他の自殺していく人々にも大したエピソードはなく
全部があっさりしている印象

ドヴァシュ一家の父と母が自殺用品を売るのに嫌気が差して落ち込むって場面も
唐突で中身がないからいまいち感情移入ができないです

アランの行動原理も特に理由がなく
ただ根が明るいいい子だからってだけなのは
ちょっとつまらないですよね

アランはキーパーソンな訳だから
もう少しなにか深みがあってもいいんじゃないかと思う

アランの兄と姉も薄い
姉はまだそれなりに活躍する場面があるけど
兄に関してはほとんど空気みたいな扱いです
この2人が暗いのもドヴァシュ家だからってだけでかなり薄い

 

そして、何よりも納得できないのが結末です

簡単に言えば
本作の最終的な到達点は
生きていればいいことあるよ
という所です

ネガティブなことばかり考えず
小さな幸せにでも目を向ければ
笑顔で楽しい生活を送れるよって話なんですよね

シンプルにハッピーエンドのいい物語で終わるんですけど
そこにあまり納得できなかったりします

このストーリー自体は悪くはないですが
ここに至るまでの描写が悪い

このハッピーエンドとブラックユーモアが
全然噛み合ってないと思うんです

例えば
最終的に家族愛を描いているストーリーなのに
親の愛情を感じれない描写がとても多いんですよ

父親ミシマが息子のアランに煙草を吸わせる場面は
煙草を吸わせることで寿命を縮める
というブラックな笑いの場面です

ブラックユーモアとしては面白い描写ですけど
本作のラストを考えると
ここはすごくノイズになる

息子を殺そうとしてるわけですから

ぶちギレたミシマが刀振り回しながらアランを追っかけるのも
ノイズになりますよね…

こんなのがあって最後だけ幸せな家族の姿を見せられても
説得力がないんです


あと、ラスト付近の
クレープ屋を始めたドヴァシュ一家の元にやって来た首吊りに失敗したおじさんが
ミシマから秘密で毒薬を買って自殺してしまう
というのも
笑いとしてはありなんですけど
やっぱり本作のハッピーなメッセージからすれば
真逆のことをやっていてすごく引っかかる

ここは普通に
アランのいたずらのお陰で命をとりとめたんだから
クレープを食べてハッピー
みたいにシンプルにやればいいのにと思いました

生きていればいいことあるって言ってるんだから
最後にこのおじさんを殺してしまったら
全部が台無しになってしまうと思うんですけどね

これは結果的にどうすれば良かったのかを考えると

ブラックユーモアを徹底したダークな作品にするか
人間ドラマをしっかり描いたメッセージ性の強い作品にするか
どちらかに絞るべきだったように思うんです

本作は両方とも同じ比率でやってしまったから
中途半端な出来になってしまってる

個人的にはハッピーな映画より
ブラックユーモアを貫いたもっと刺激の強い作品を観てみたかったって思いもありました

 

全体的に独特な魅力的で
これだけでこの映画はなかなか面白い作品だとは思うけど
もう少し内容が濃ければもっといい映画になっていたと思います
ハッピーエンドの良い話だし
軽い気持ちで観れば雰囲気を楽しめる良作でした

 


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