何もかもが滑稽

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映画、漫画、アニメなどが好きで、その事についての感想、思ったことなどを書いています。 それ以外の事も時々書きます。

映画「ホモ・サピエンスの涙」感想 不思議すぎる映画 これはもはや絵画

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どうもきいつです


ドラマ映画「ホモ・サピエンスの涙」観ました

年齢も性別も時代も違う人々の悲劇や喜劇が描かれるスウェーデンの作品
全33シーンをワンシーンワンカットで撮影されています

「さよなら、人類」などで知られる
スウェーデンの奇才ロイ・アンダーソンが監督を務めています

 

あらすじ
上空を浮遊し荒廃した街を眺めるカップル
この世に絶望し信仰を失った牧師
数年ぶりに再開した友人に無視される男
これから愛に出会う青年
音楽に合わせ道端で踊る若者たち
そんな様々な人たちの姿が描かれる

 

感想
作風が独特すぎて
最初はこの作品をどう受け取ればいいのか戸惑ってしまう
でも、映画ではなく絵画だと思えば
本作はすんなりと受け入れることができました
やっていることは興味深くて面白い

 

たまたま存在を知り興味が湧いたので観に行ってきました

予告映像も見ず
ほぼ前情報もなく観に行ったので
この独特な作風にはかなり驚かされた

なにこれ?って思わされる変な映画
これはもはや映画ではないのかもしれない

 

本作は賛否が別れるだろうなって映画で
この映画をどう観るのかは難しい

ストーリーは全く無くて
メッセージも伝わってこない
一体何を見せられているんだろうと思ってしまう

この映画を観ている途中に寝てしまう人もいるでしょう
途中退場する人もいると思う

映画的には決して面白い作品とは言えないです


ただ、途中から
これは映画じゃないな
と思えてくる

本作は映画として観てしまうと
何をやってるかよくわからない意味不明な作品なんですけど
これを美術館で絵画を観てると思えば
とてもしっくりきました

本作は映画鑑賞と言うより絵画鑑賞なんですよ
だから、ストーリーなんて必要ない

33の短いエピソードが淡々とオムニバスのように続きますけど
それぞれの繋がりはや細かいドラマ性なんか無くても成立する

1つ1つのエピソードが独立した作品で
個々の作品の中から感じとるものは鑑賞者に委ねられます

そんな作品なので
本作を映画的な価値観で意味を求めてしまうと
ちょっと噛み合わないと思う

エンタメ性とかストーリー性とかメッセージ性とか
そういうものを向こうからは与えてくれない
自分で見い出さなければならないんです

1本の映画の中からたった1場面を抜き取り見せられ
そこから全てを想像しなければならない
というようなものを33も見せつけられるわけです

だから、本作を受け入れられない人は本当に受け入れられないんだろうなと思う

本作はアート映画と言うよりも完全にアートで
根本的に映画とは違う何かをやってるんですよ

 

でも、見方を変えてしまえば
本作はとても興味深くて面白い

この作品の世界に引き込まれて
魅力に気付くことができると思います

この映画は絵画を意識して作られているのは間違いなくて
監督はこの映画を美術館のような作品にしたかったんだと思います

映画的にはかなり奇抜で掴み所のない作品に仕上がっているけども
本作を美術館で観る絵画だと思えば
かなり王道なことをしている

まず、それぞれのエピソードを1枚の絵画として観れば
構図、色彩、人物の動きなど
全部がとても計算し尽くされてます

特に物の配置や画面の角度は絵画的に作られていて
どの人物に注目させたいのか
このエピソードのメインはなになのか
というのが映像だけで理解できる作りになってます

セリフで説明したりカメラの動きで注目させたりは一切せずに
全く動きのないワンショットでちゃんと理解できる

やってることは完全に絵画を描くときの技法で
絵画としては普通なことをやってるんですよね


そして、本作は1人の作家の個展でもあって
1つ1つの作品から感じ取れるものもあれば
全体を通して感じ取れるものもある

全体を通して監督の作家性やテーマが一貫しているので
全体的にも1つの世界観が生まれています

本作の場合は
人間の切なさ、愚かさ、滑稽さが込められていて
ちょっと悲壮感を漂わせつつもどこか笑えたりもする

とてもネガティブな姿を描きつつも
その人間らしさに少し希望も感じさせられます

そんな本作の全体的にあるなんとなくの雰囲気を楽しむのも
美術館で絵画を観ているときの感覚と同じ

雰囲気を味わうのも本作の楽しみ方の1つだと思います


さらに、本作の上映時間は76分と少し短め

これも美術館に入って出てくるまでの時間くらいでちょうどいい
これよりも長ければ観るのがちょっとしんどくなってくると思いますし
短ければ少し物足りないと思う

そんな部分も計算されてるのかなと思わされます

 

で、やっぱり本作は映画なので
映画を観る気持ちで観てしまう
なので、戸惑ってしまう人も多くなると思います

美術館によく行く人なんかは
結構すんなりとこの映画を受け入れることができるでしょうが

普段から美術館で絵画を観ることがない人は
本作を映画としてしか見れないと思うんです

だから、1つのエピソードの中に
ストーリーやメッセージを感じ取らなければ
意味を見い出ださなければ
空白を埋めなければ
と使命感に駆られてしまう人もいるかも

絵画を観るときでも
そういう楽しみ方がありますけども
それだけではない

空白を埋めるのではなく
空白を味わうという楽しみ方もあります

本作も無理をして意味を探してストーリーやメッセージを求め
それで頭の中の空白を埋めなくても

なんとなくこの映画の雰囲気を味わう
というのも一興だと思います

頭の中を空っぽにして
神様のような視点で本作の登場人物たちを眺めるだけでも
どこか面白さを感じれる

 

あと、本作の面白さは
動くというところです

これは絵画では表現できない部分で
本作だからこその特徴

構図がとても計算されていると言いましたけど
人物の動きもかなり計算されています

動くタイミングや移動する位置など
そこまでしっかりと計算されているから
本作は動く絵画として成立しています

映画の映像としては明らかに人間の動きは不自然であり得ない
人物の配置や全く動かない人物がいたり
現実世界ではおかしいですもんね

でも、絵画として見れば
すごくバランスがよくて見映えがいいです

この動きがあるから
本作は美術作品としても面白い作風になっていて
本作だからこその唯一無二の魅力が引き出せています

 

この映画は今までに観たことのない作風で
とても楽しめました
たまにはこんな不思議な映画を観るのもいいもんです

ちょっと独特すぎて受け入れ難い映画かもしれないけど
見方を変えればとても興味深くて面白い

観て損はない映画だと思います

 


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