何もかもが滑稽

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映画、漫画、アニメなどが好きで、その事についての感想、思ったことなどを書いています。 それ以外の事も時々書きます。

映画「素晴らしき世界」感想 残酷な世界の隙間にある微かな優しさを感じれた

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どうもきいつです


ドラマ映画「素晴らしき世界」観ました

佐木隆三の小説「身分帳」を原案に
舞台を原作の35年後である現代に置き換え
13年の刑期を終えた元殺人犯の出所後の日々が描かれます

「ゆれる」「永い言い訳」などの西川美和が監督と脚本を手掛け
役所広司が主演を務めています

 

あらすじ
殺人を犯し13年の刑期を終えた三上は
東京で真っ当に生きようと
身元引受人の庄司の助けを借りながら自立を目指していたが
目まぐるしく変化する社会にすっかりと取り残されてしまっていた
ある日、生き別れの母親を探す三上のもとに
テレビディレクターの津乃田が現れる

 

感想
現代社会の生きづらさがひしひしと伝わってくる
でも、そんな中にも人間の優しさを感じれた
生きることや幸せとは何かを考えさせられる
“素晴らしき世界”とは何かを問われたような気がしました

 

予告を見て気になっていたので
観に行ってきました

本作のテーマは最近観た「ヤクザと家族」にとても似ていました

どちらも
裏社会で生きてきた男が刑務所に収監され
数年後に出所し社会の変化に翻弄される
といった内容

両方とも不器用な男の生きざまを描いたような作品なんですが

大きく違うのは
裏の世界を中心に描いているのか
表の世界を中心に描いているのか
という部分だと思います

「ヤクザと家族」はヤクザの目線
ヤクザの世界からみた時代の変化
というものを描いた作品で
かなりフィクション感の強い作品だと思います

なので、一般人である自分たちは共感しづらい部分も多少ありました


しかし、本作は
かつて裏社会で生き殺人を犯した男が
現代の一般社会でどう生きていくのかが描かれています

社会の冷たさ、残酷さ、理不尽さ
そんな生きづらさがこの映画からは痛いほど感じさせられます

主人公の三上はかつて殺人を犯した殺人犯ではありますが
この映画で描かれていることは
普通に生きてきた自分達でも共感できる部分は大いにあると思います

むしろ、現代進行形でこの生きづらさを感じている人はたくさんいるはず

その点ではこの映画はとてもリアルで
現実に三上という人物がいるように思えるし
自分もこの世界と繋がっているようにも思える

だからこそ
この映画を観るといろいろと考えさせられました

 

物語の内容は
出所した三上が
どのようにして社会に馴染んでいくのか
というものを淡々と描いていて

正直、あまり盛り上がりは無いですし
劇的な出来事が起こる物語ではありません

かなり地味な映画だと思います

「ヤクザと家族」はエンタメな面白さもありましたが
本作はあまりエンタメ要素はありません

同じようなテーマでも作風は全然違っていました


そんな地味な映画ではあるものの
主人公の三上という男はとても魅力的で
彼の行く末はどうなるのかと
最後まで引き付けられる

基本的に三上の日常をひたすら描いているだけの作品で
あまり面白い映画ではないと思うんですが
何故かとても面白く見せられてしまいます

それはなぜかと考えてみると

やっぱり役所広司の力が大きいと思います

三上というキャラクターが役所広司の演技で
この世界のどこかに存在する人物のように感じさせられます

不器用で粗暴で根は優しい三上が
嘘っぽくないリアルな人物として表現されています

そもそも実在の人物をモデルにしたキャラクターではありますが
とは言え、ここまで魅力的に感じれるのは
役所広司だからこそだと思う

 

それに、役所広司だけがすごいというわけでもなく

三上を魅力的に感じさせるような
脚本や映像の見せ方もありますし
監督の力も大いにあると思いました


とにかく
本作は三上という人物を
とても好きになるし感情移入してしまうし
それだけでこの映画に最後もアで引き込まれてしまいました

 

そして、本作は三上を通して見た社会の生きづらさが描かれています
一度道を踏み外してしまった人間が
如何に生きづらいかがひしひしと伝わってくる内容

そりゃ今までの自分の行いが悪かったから
つらい思いをするのは当然とも思うけど

それがすべて一人に人間の自己責任なのか?
と少し疑問にも思わされます


生まれや育ちなどの環境の問題もあって
スタート地点が最悪なら
まともに生きることすら難しい社会
それは間違いないことだと思います

最悪な環境からでもまともな人生をつかみ取る事ができる人もいるけど
そんな数少ない成功者だけを取り上げて
その他の人たちを自己責任と言って切り捨てるのは思うし


本作の三上も
生きてきた環境は全くいいものではなく
それ故に欠けているものがとても多い人間です

だからこそ社会ではとても生きづらい

三上が自分の言動のせいで社会から弾かれるのは自業自得で
それが当たり前のことでもありますが
こんな人間が生まれてしまうのも社会の仕組みのせいで
そこに理不尽さも感じます
三上の存在を通してこの世界の残酷さが伝わってくる


ただ、本作は
観ているのがつらい映画なのかと言うと
意外とそうではなくて

人間の優しさを感じれる
少しほっこりとした内容だったりするんですよ

社会全体で見れば理不尽で残酷な世界だけど
そんな世界の中にも手を差し伸べてくれる優しい人間は確実にいて

そんな部分にフォーカスを当てた
希望を感じれる作品です


三上が出会う人たちは
みんな無条件で三上を助けてくれるような存在です

何のメリットも無いのに他人にこんな優しくする人なんているわけない
と言う人もいるかもしれない

でも、現実もおっせかいで優しい人は絶対いて
そんな人に救われてたりもする

残酷な世界であっても
そこには絶対に光があって
それこそが“素晴らしき世界”なんだと思うわけです


でも、本作はただの美談で終わってるわけではなく
優しさやまともに生きることの曖昧さも感じさせられる

三上に対するみんなの優しさや
社会で上手く生き抜くために自分の気持ちを押し殺すこと
三上にとってそれは本当の幸せだったのかな
と疑問に思いました

終盤の
職場で障害者の男性がいじめられるのを目の当たりにした三上が
気持ちを殺して周りに合わせる場面

ここでは三上の成長を感じられるしホッとさせられます
でも、なんかモヤモヤしたもの感じるんですよね

本当にこれでよかったのか?
と思ってしまいました

社会で生きて行くためには社会に順応するしかない
みんなが当たり前で揺るぎのないことだと思い
それに抗うことなく生きてるけど

その先に本当の幸せはあるのかと考えさせられる

変わるべきは
自分なのか社会なのか
本当の優しさは何なのか
そこまでして生きるべきなのか

この映画を観ると
いろいろなことが頭をめぐって
それでもなかなか答えを見い出すことができませんでした

三上の生きざまを観ることで
自分の生き方についても考えさせられた気がします

 

少し地味な映画ではありましたが
三上がとても魅力的な人物だったので
最後まで全然飽きずに観ることができました

この作品を通していろいろと考えさせられ
自分にとって何か糧になるような作品だったと思います

 


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