何もかもが滑稽

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映画、漫画、アニメなどが好きで、その事についての感想、思ったことなどを書いています。 それ以外の事も時々書きます。

映画「ひらいて」感想 本人すら何したいのかわからないのが青春

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どうもきいつです


青春映画「ひらいて」観ました

綿矢りさの同名小説が原作の青春ラブストーリー
校内で人気者の女子高生、彼女が思いを寄せる同級生、その同級生と密かに交際する病弱な女子
3人の高校生の三角関係が描かれます

監督を務めるのは首藤凜
出演するのは山田杏奈、作間龍斗、芋生悠などです

 

あらすじ
成績優秀で校内で悠人気者の愛は
地味で寡黙な同級生のたとえに思いを寄せていた
たとえになかなか近づけずにいた愛は
彼が大事に手紙を読んでいる姿を見つけ
その手紙を盗み読みしてしまう
手紙の相手は糖尿病を患う地味な女子の美雪で
2人は交際していたのだった
愛はたとえへの恋心を隠し美雪に近づく

 

感想
青春だけどすごく暗い
学生時代の嫌な部分を煮詰めたような…
自分ですら自分が何をしたいのかわからないのが青春なのかもしれない
山田杏奈の存在感が輝いていた…
というか、どす黒かった

 

前から気になっていたので観てきました

原作は読んだことありませんが
同じ綿矢りさ原作の映画「私をくいとめて」「勝手にふるえてろ」は好きな映画

それもあり本作にも期待していました

 

本作は以前に観た2作と同じく
こじらせた女子が主人公の痛々しい物語

ただ「私をくいとめて」や「勝手にふるえてろ」の場合は
個人的に共感できる部分がとても多い共感度の高い映画だったんですけど

本作の場合は
個人的には主人公に全く共感できなくて
もはや何を考えているのかもわからない

掴み所のない女子高生が暴走するのをひたすら見せられて
ちょっと戸惑いを隠せなかった

描かれる内容もなかなかドロドロだったりで
いろんな意味で病んでる映画かなと思います

 

まずは冒頭のシーンですが
ここが入り口としてとても良かったです

アイドルグループのMVみたいに
歌と踊る女の子たちから始まる

これが乃木坂46とかの坂道グループっぽく
歌もそれっぽい
櫻坂か日向坂の新曲かな?
とか思ってしまったけど

歌ってるのはアイドルでも何でもない一般の人たちらしいです

ただ明らかにそれっぽく作って狙ってますよね

で、ここでのダンスシーンが
単純に映画の始まりとしても面白いと思わされたし
それだけはでなく

このシーンで主人公の愛の
キラキラしてるようでどす黒い青春の姿が表されているんですよ

なんとなく愛ってこんな人間だというとこが暗に表現されてる

笑ってるけど目が死んでるみたいな

アイドルソングのキラキラしてるけど儚い雰囲気がこの映画とマッチしてて
その上、そんな純粋さと愛のどす黒さとのギャップが上手く機能してると思います

この冒頭の場面だけで
本作の方向性がなんとなく示唆されている

 

そして、本作の中心となるのが
山田杏奈が演じる主人公の愛の
こじらせ女子な姿とそれ故の暴走

ここが面白くも痛々しい
観ていて少し辛くなるほど

これは「私をくいとめて」「勝手にふるえてろ」などと
やってることは似ています

自分が信じていた世界が崩れだし
どうすればいいのかわからず暴走する
そこから彼女は自分に向き合っていきます

同じくこの2作と共通してるのは
主人公に共感できる人はとても共感できるけど
できない人には主人公がヤバくて嫌な人間にしか見えないという部分

本作の場合は
僕はあまり共感できなかった
愛がヤバくて最低な人間にしか見えなくて
あまり好きなキャラではないかな

とは言え
愛の気持ちがわからんでもないし
他作品を観ていると
方向性が違うけど根本の部分は同じなんだと理解できます


本作の愛は
孤独とか恋愛経験がないとかのこじらせかたではなく
その逆のイケてる人間側だからのこじらせかたをしています

勉強はできるし友達もいるし
そこそこ恋愛経験もあるだろうし
男子からも結構モテてるっぽい
いわゆるスクールカーストの上位なわけです

ダンスでセンターの位置なのがそれを表してますよね

愛はそれなりに人生が上手くいっていて
思い通りに生きてきた人なんですよ

だからこその自信やプライドの高さがあり
自分のことが大好きで
望むものは全て手に入ると思っていて
そして、そこには他者は存在しない
ある意味、彼女は自分独りの世界に閉じ籠っているんです

愛は人を見下してる節が大いにあって
友達と仲良くしてるようでも
自分とお前らとは住んでる世界が違うんだよ
って空気が漂ってる

恋するたとえにすら
上から目線でプライドがガチガチですもんね

わざわざゴミを散らかして話すきっかけをつくったりして
素直に話しかけることができてない
告白した時なんて
自分のものになってくれ
ですから

自分から他人に歩み寄ることをしない人間なんですよ

妄想しがちとか趣味に没頭するとかの孤独とはベクトルが違うけど
結局は人と壁を作って他者を拒んでいるという点では
それらとそんなに違わないと思います

 

で、そんなスクールカースト上位でそれに絶対的な自信を持っている愛ですが

たとえと美雪の存在によって
彼女のその世界は崩されてしまう

この2人は愛からすれば常軌を逸した存在で
彼女の価値観やプライドが一切通用しない
この2人はに関しては思い通りにいかないわけですよ

愛はたとえと美雪の関係性や考え方を知ることで
様子がおかしくなっていきます

愛の言動はめちゃくちゃで
たとえが自分に振り向いてくれないから
だったら美雪と肉体関係を持って2人の関係をぶち壊してやろう
という、なかなかすごい発想の女子高生です

ただ、この方法は明らかにおかしいし
何のためにやってんだよ
とも思ってしまいます

こんなことやってもたとえに嫌われるだけだし
自分の恋が実るわけない

愛の気持ちは理解不能で感情移入すらできません

でも、それは愛自身も同じだなのかも

たとえや美雪のことが全く理解できず
その上、2人の間に入り込む余地はない
それでも諦めきれず気持ちが押さえきれない

で、自分でも何をやってるのかわからない暴走をしてしまってる

思春期のどうしようもなく気持ちが押さえれず暴走してしまう
というのは形は違えど経験している人は多いと思う
そんな点では愛に共感できる部分もあるんですよね


それに、愛はただ暴走しているだけでなくて
がむしゃらに他者と関わっていくわけです

自分の思い通りにならなず理解の及ばない異質な2人と関わることで
他人と向き合っていくし
自分とも向き合っていきます

打算で美雪と肉体関係を持つけど
この時の愛は自分の本心をさらけ出してる

たとえに告白するときは
自分の欲望を剥き出しで気持ちをぶつける

普段は嘘っぽい笑顔と死んだ目で過ごしている愛が
この2人と関わるときだけ感情を露にしている

理解できないから知ろうとして
自分を伝えようとしているんです

たとえと美雪に接することで愛は
タイトルのように
自分の閉じた世界を“ひらいて”いくし
自分の心も“ひらいて”いく

はじめは理解不能で嫌な女の子だった愛も
最後まで観るとちょっと理解できます
そして、愛のことが少し好きになってる

それはやはり彼女の成長を感じれたからなのかもしれません

 

あと、山田杏奈がめちゃくちゃ良かった映画でもあります

今までいろんな作品で彼女をちょくちょく見かけたけど
本作が1番魅力的でした

単純にあの嫌な女を嫌な女として演じてるのがすごい
本当に笑顔が嘘っぽいし目が死んでる

愛が本当にいる女子高生に思えます

それに攻めた役柄でもありますし
本作で同世代の女優に少し差をつけたんじゃないかなと思いう

あまり興味なかったけど
この映画で山田杏奈を好きになりました

 

なかなか暗い青春映画だけど
この暗さは自分にもあったな
とかも思ってしまいました

キラキラしてるだけでなくどす黒い
それこそが青春なのかも

 


ひらいて(新潮文庫)