何もかもが滑稽

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映画、漫画、アニメなどが好きで、その事についての感想、思ったことなどを書いています。 それ以外の事も時々書きます。

映画「LAMB/ラム」感想 意外とほのぼの そして不穏

どうもきいつです


ホラー映画「LAMB/ラム」観ました

アイスランドの田舎で暮らす羊飼い夫婦が
羊から生まれた羊ではない何かを育てる姿を描いたスリラー

監督は本作が長編初監督のバルディミール・ヨハンソン
主演はノオミ・ラパスで製作総指揮も務めています

 

あらすじ
アイスランドの山間で羊飼いをしている夫婦マリアとイングヴァルは
ある日、羊の出産に立ち会う
しかし、羊から産まれてきたのは羊ではない何かだった
2人はその存在にアダと名前を付け育てることにする
アダとの生活はこの上ない幸せに満ちていたのだった

 

感想
終始、淡々としていて掴み所がない映画
わかりやすく面白い作品ではないと思う
ただ、不穏な雰囲気にどんどん引き込まれていきました
これは人間の愚かさとそれに対する報いを描いた寓話なのかもしれない

 

予告を見て以前から興味があった作品
期待して観に行ってきました

本作はホラーなのかスリラーなのか
正直、ジャンルはよくわかりません

わかりやすいホラーな演出などもほぼなく
むしろ、ちょっとほのぼのしていると言うか…
幸せな雰囲気すら漂っている

その上、最後まで淡々と静かに進んでいく物語でもあって
わかりやすく面白い映画でもありません

物語がどこへ進んでいるのか
結局どういうことだったのか
終始、掴み所があまりなくて
意味不明な映画という印象を持つ人も多いと思う

本作はエンタメ的な楽しさは皆無なのではないでしょうか

この映画を観て
面白い映画だった
と一言では言えないですよね

 

ただ、個人的には本作に引き込まれて
この映画の独特な世界観に浸れました

先の読めなさにどんどんと興味を惹かれ
幸福の裏に見え隠れする不穏な空気にゾクゾクさせられた

表面的にはさほど怖くないけど
噛めば噛むほど味わいのある怖さが染み出てくる

しかも、その怖さって
未知のものに対する漠然とした恐怖ではなく
人間の中に潜む普遍的な危うさへ対する恐怖のように思います

本作は教訓が込められた映画なのかなと

映画というよりは寓話
昔話を聞いているような感覚にもなりましたし

 

まず、この映画はあまり意味を求めすぎない方がいいのかなと思います

例えば
夫婦のが育てることになる仔羊人間は一体どういう存在なのかとか
所々に垣間見える意味深な場面とか
意味がありそうだしたぶん意味はあると思う
神話や聖書などがベースにあることが伺えます

でも、そこを考えすぎると
この映画の本質的なものが見えてこないようにも思うんですよね

本作で重要なのは
裏に込められた意味深なものではなくて
この夫婦の行いとそれに伴う結果なんじゃないでしょうか

そこを中心にこの映画を観ると
かなりわかりやすい映画でもあります

簡単に言えば
自分の幸せのためにエゴを剥き出しにした人間が
最後にはそれ相応の報いを受ける話です

主人公のマリアは過去に娘を亡くし心にポッカリと穴が空いた状態
そんな時に半獣半人の異形の赤ん坊が現れます

普通なら異形の者に対する恐怖や戸惑いの気持ちが先に来るはずですけど
この精神状態の彼女からすればそんな異形の者ですら神からの恵みに思えてしまう

そこからマリアとイングヴァルの夫婦は仔羊人間を育てることになりますが
これが人間のエゴで愚かなところ

マリアは仔羊人間を自分の娘のように育てるけど
それは仔羊人間にかつての自分の娘を重ねているだけで
ただ心の穴を仔羊人間で埋めているだけなんですよね
実際の自分達の娘の名前を付けていることからもそれが伺える

仔羊人間を育てることでマリアは幸福感を感じているけれど
その幸せを得るために他者の子供を奪い
さらにはその母親を殺しているわけです

マリアは本当に身勝手な人間なんですよ


夫のイングヴァルにしたって
この状況が異様だとわかっているけど
目の前の幸せを手放したくないから見て見ぬふりをする
この状況が異様でないと自分に嘘をつき思い込んでいる
これもまた人間のエゴですよね


そんな身勝手な夫婦だからこそラストの展開は当然の報いで

自分達の幸せのためとは言え他者を蔑ろにしてしまえばこのような結末が訪れる
という教訓が込められているのは理解できます


最後の羊男の登場や
その羊男がライフルを使ったりとか
そこに引っかかる人もいるかもしれないけど

夫婦の行いに対する因果応報の物語と捉えれば
羊男がライフルを使うことには納得できるし

この羊男は
自分達のエゴのため自然の摂理を犯した夫婦へ
罰を与えにきた神のような存在だとも思える

改めて考えても
やはり本作は寓話なのかなと思わされます

 

そして本作は
教訓めいた寓話ってだけでなく
映画的にも面白いなと思わされます

特に面白いのは
極端に説明が少ないのに何故かいろいろと察することができる作り

言葉の説明なんてほぼ無いのに
この夫婦の境遇は理解できて
異形の仔羊人間を子供として受け入れてしまうことに納得できたりもする

バックボーンは詳しく語られないけど
会話や表情や空気感から
それぞれの人間関係が見えてきたり
過去に何があったのか想像できたり

映画としての見せ方がとても上手いなと思わされます

必要最低限の会話で成り立っているからこそ
とある夫婦の日常を覗き見しているようなリアリティを感じることもできる

 

そして、やはり幸福と不穏の表現がすごく良い
これがすごく気持ち悪いですよね

基本的にこの映画ってほのぼのしていて
幸福感に溢れているんでよ
観ていてほっこりするような場面も多いです

観客ははじめは異形な仔羊人間のアダに違和感を感じるけど
映画を観るにつれて段々と可愛く愛らしくすら思えてきます

そんな幸福感に溢れる日常が見せられるからこそ
所々に散りばめられている緊張感のある場面にゾクッとさせられる

そして、幸福感に溢れているから
異形の存在を育てている不自然さであったり
この幸せの先が見えない不透明さであったり
そんなところから不安な気持ちにさせられる

不自然さや先行きの見えない不安さによって
幸福でありながらも常に不穏な映画でもある
 
この空気がとても独特で
それが故にこの映画の世界にどんどんと引き込まれていきます


イングヴァルの弟の存在も効果的で
彼がいるから観客はこの世界に引き込まれつつもどこか客観的であれる

この弟の目線が観客の目線と同じで
アダを育てる夫婦がおかしいと思いつつも
アダが可愛い子供のようにも感じています

でも、弟にとってはアダに対する思い入れがさほどなく
客観的に夫婦の未来について言及できる存在だったりもする

彼がこの世界に存在することによって
過度に夫婦に感情移入することもなく
かと言ってこの夫婦を突き放すような気持ちにもなれなくて
観客を絶妙な立ち位置で保たせてくれるんですよね

だからこそ本作の結末から見えてくる教訓がすっと心に入ってくる

 

あとは、シュールな空気感に笑わされたりもしました

特に笑ったのは
夫婦が弟にアダを紹介する場面
この時の弟の反応が的確すぎて面白い

そりゃあんな感じになるよ
ツッコミどころが多すぎて何も言えないよね

 

それと、やはり演技もなかなかすごい

ラストのノオミ・ラパスの表情なんて
全てを失ってしまった絶望なのか
はたまた、この異様な状況から解放された安堵なのか

どうとも取れるこの絶妙な表情に気持ちを掻き乱されたような…
そして、ここからいろいろと考えを巡らされます

てか、全体的に演技で魅せる映画でもあって
絶妙な間とか絶妙な会話とか
出演者みんなが演技で引っ張っていたような映画ですね

犬、猫、羊など動物もちゃんと演技してましたしね
演技させられているという方が正しいかもしれないけど

演技にこだわっているのはめちゃくちゃ感じれて
演技によるリアリティも高いと思います
そこも本作の魅力の1つなのではないでしょうか

 

わかりやすくインパクトのある演出や
わかりやすく面白い展開などはなくて
ちょっと味が薄い映画の印象を持つかもしれません

でも、本作は噛めば噛むほど味が出てくる映画かと思う

何回も観ればまた印象が変わるかもしれない

静かだけど興味深い映画でした