何もかもが滑稽

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映画、漫画、アニメなどが好きで、その事についての感想、思ったことなどを書いています。 それ以外の事も時々書きます。

映画「ゼイリブ」感想 今だからこそ深まるテーマ

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どうもきいつです


SF映画「ゼイリブ」観ました

異星人のサブリミナルによる姿なき侵略を描いたSFスリラー
物質主義やメディアによる洗脳などの批判や警鐘が込められた風刺的なものも描かれている
1988年の作品です

監督は「遊星からの物体X」などの鬼才ジョン・カーペンターが手掛けています

 

あらすじ
貧富の差が激しく失業者が増える中
ネイダはホームレスのキャンプに流れ着き寝泊まりすることになる
建設現場で肉体労働を繰り返す日々の彼だが
偶然手に入れた特殊なサングラスを通し
人間になりすまし世界を支配する侵略者の姿が見えてしまうのだった
真実を知ったネイダは侵略者と戦うことを決心する

 

感想
昔の映画なのに
現在進行形で世界の姿を写したかのような映画
この時代から世界がなにも変わっていないのか
時代がよりこの映画に近づいたのか…
少しモヤモヤさせられた

 

今まで観たことがなかったんですが
リバイバル上映されてるということで観てきました


そこそこ古い映画ではありますが
テーマは現代に通じるものがありますし
発想もなかなか面白くて
最後まで興味深く観ることができた

独特な作風がクセになる映画でもありますね
個人的にもなんか好きな作品でした


まず、この映画は
どこかもっさりしてると言うか
ちょっとテンポが独特と言うか
あまりスカッとはしないですね

終盤になると怒濤の展開にはなるけど
全体的に流れはゆったりしています

だから、少し取っつきにくさはあるかもしれません

特に序盤は
何かが起きそうで何も起きず
淡々と主人公のネイダの姿が映し出される

ここでは
仕事を失いながらもどうにか日々を過ごすネイダや
ホームレスのキャンプで暮らす貧しい人々が描かれているわけです

これがいまいち掴み所がなくて
どんな気持ちで本作を観ればいいのかちょっと戸惑う

しかも、ストーリーの流れがゆったりとしているので
観ていて気持ちがフワフワしてくるんですよね
今、自分は何を観ているのだろう…?
みたいな気持ちになってくる

ただ、音楽や暗い雰囲気などで
少し気持ちを煽られているような気もして
若干、気持ち悪さや不安な気持ちも生まれてきます

この何とも言えない絶妙な雰囲気が
ネイダやキャンプの人々たちの気持ちと
どこかリンクしているようにも感じるんですよね


ネイダがサングラスを見つけてからは
物語が一気に加速する
と思いきや
ここからも思ったよりはゆったりしてる

ただ、物語に動きが起きるのと発想の面白さとで
どんどんと映画には引き込まれいきます

やはり、サングラスを掛けると世界の真実の姿が見える
というのは面白いですよね

実は社会を牛耳っているのが謎の宇宙人的ななにかであったり
街の看板や雑誌には
「考えるな」「消費しろ」「眠っていろ」などが書かれていて
全ての人間はサブリミナルによって洗脳されているんですよ

この描写や世界観が
今見てもなかなか斬新なものだと感じます

侵略者の姿は
ドクロのような妙に気持ち悪い姿で
そこが魅力的でもある

そんな点でも
とても独創的で観ていてワクワクさせられてくるんですよ

 

で、本作で描かれているものは現実の世界と通じるものがあり
そこが面白かったりもします

知らずに宇宙人に洗脳されている地球人たち
というSFな物語ではあるけども
これってかなり現実社会でも当てはまるテーマですよね

一般市民たちが大きな存在に操作され支配されているなんて
現実的じゃないような気もするけど
よく考えればそれが現実なのは否めないこと

特にネットが普及した今だからこそ
この映画が公開された時代よりもそれが加速しているようにも思う

例えばGoogleなんて
検索履歴や位置情報などから
完全に行動や趣味嗜好を把握されていて
ピンポイントで欲しいものをおすすめしてきたりするじゃないですか

その思惑通りに消費させられ搾取されているのは間違いないですよね

それだけでなく
Netflixなどのサブスク、広告だらけのYouTube、ガチャを引くだけのスマホゲームなど
何も考えずに楽しめるコンテンツで溢れかえり
みんな思考停止してお金を搾取され続けている

そして、みんなそれに気付かず
自分で選択して行動していると思い込んでいるわけです

まさしく「考えるな」「消費しろ」「眠っていろ」と刷り込まれてしまっている世界ですよね


今となればずいぶん昔の映画だけど
本作のユーモアに込められた皮肉は
今の時代だからこそより刺さると言うか…

この映画が30年以上も前に
そんな世界に警鐘を鳴らしていたにも関わらず
世界は停滞したままで
なんか、そこに少し恐怖も感じたりしました

てか、もはやそれが社会のシステムで
バランスの取れた世界のあり方なのかな?

 

そして、本作は
宇宙人に支配された社会に抗い戦う主人公が描かれていますが

この主人公のように抗い戦って社会を変えよう
というメッセージが込められているのかと言うと
そうでもなくて

主人公の行いが正しいと言い切っていない
曖昧さもあるんですよね


主人公のネイダはいわゆる底辺の人間
そんなネイダがサングラスを掛けることで世界の真実を知り
宇宙人に戦いを挑んでいきます

ただ、ネイダの行動が
あまりに突発的だし暴力的
正直、ちょっと怖いレベルです

地球人の中に宇宙人が紛れていたからといって
躊躇なく無差別に殺すのは
さすがにやばくない?

ネイダが執拗に宇宙人を倒すことにこだわっているのもいまいち理由がわからず
感情移入が全然できないんですよ

途中でネイダが
昔、父親から虐待されていたという話をして
それも宇宙人のせいだ
みたいな感じになってましたけど

いやいや…
さすがにそれは関係なくない?


ネイダを見ていると
自分がこんな状況なのは社会のせいだ
と責任転嫁して暴れているようにも見える

確かに社会のせいで貧しい生活を送っているのも間違いではないけど
本当にそれだけなのか?
という部分もありますよね

ましてや、全て社会のせいで自分は全く悪くない
って思考はちょっと極端


本作はネイダをただの正義の味方として描かないことで
この問題にどう向き合うべきなのかを考えさせてくれる

本作のラストは
ネイダの行動が世界を変えるという結末ですけど
世界が変わったことでどうなったのか
までは描かれていません

宇宙人の侵略が終わったのか
はたまた侵略はこれからもずっと続くのか
そこはわからないままです

明確な答えを用意しないことで
この問題に向き合うことを促されているような気もしました

宇宙人に取り入ることで富を得た人物が登場しますが
その人が言ってることも一理あるなと思ったり
でも、ネイダのように抗い戦うことにも意味があるように思ったり

結局は
こんな世界の中でも自分を見失わず考えて
搾取されるだけの弱者にならないよう生きていくしかないのかもしれない

 

あと、本作で印象に残るのは
ネイダと彼の同僚フランクとの殴り合いのケンカのシーン
これが無駄に長くて笑えてくるレベル

ケンカの原因も
サングラスを掛けるか掛けないかという
めっちゃしょうもない理由
これも笑えます

ひたすらどつき合いプロレス技をかけ
不毛な戦いを見せ続けられます

単純に面白い場面になってて
ここを長いと不満に思う人もいるだろうけど
僕は結構好き

それに、この不毛なケンカが
戦争を比喩しているようにも見えたりする

はじめはサングラスを掛けるかどうかで始まったわけだけど
途中からはそんな理由はそっちのけで戦うことが目的になってたり
そんなよくわからない戦いが無駄に長引く

で、最終的には
もはや何故ケンカをしていたのかもわからなくなる

もう、これは戦争ですよね


まあ、ネイダ役のロディ・パイパーが当時の人気プロレスラーというのもあり
サービスとしてケンカシーンを入れたが故
無駄に長くなった可能性は無きにしも非ずですが

 


SFとしても発想やセンスが面白く楽しめる作品でしたし
この映画のテーマは
今だからこそより深みが増してるようにも思います

いろいろと興味深い映画でしたね

 


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