何もかもが滑稽

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映画、漫画、アニメなどが好きで、その事についての感想、思ったことなどを書いています。 それ以外の事も時々書きます。

映画「ブラック・スワン」感想 これはほとんどホラー

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どうもきいつです


スリラー映画「ブラック・スワン」観ました

大役に抜擢されたバレリーナが
そのプレッシャーから精神を崩していく姿を描いた心理スリラー
主人公が潔白な白鳥と官能的な黒鳥の二つを演じることになり
徐々に精神が崩壊していきます
2010年の作品

監督は「レスラー」などのダーレン・アロノフスキー
主演はナタリー・ポートマンです

 

あらすじ
ニューヨークのバレエ団に所属するニナは踊りは完璧で優等生
人生の全てをダンスに注ぎ込むように生きていた
そんな彼女に「白鳥の湖」のプリマを演じるチャンスがめぐってくるが
狡猾で官能的な黒鳥を演じることができず
次第にニナは自らの心の闇にのみ込まれていく

 

感想
真面目で完璧だからこそ芸術表現に達することができないのは
観ていて痛々しく思ってしまう
と言うか、共感できる
所々のホラー表現は魅力的だし
ラストにはカタルシスを感じれて
いろいろと面白い映画です

 

とても好きな映画なんですが
観たのがずいぶん前だし内容も忘れていたので
久しぶりに観てみました


この映画は観たことない人からすれば
主人公がバレエで成功していくサクセスストーリー
スポ根系の映画のイメージがあるかもしれないです

でも、実際は
バレエよりも主人公ニナの精神的な部分を描いた映画です
しかも、かなりホラーテイストが強い

なので、爽やかなスポ根を求めて観てしまうと
かなり驚かされると思います

痛々しい表現も多いので
そんなのが苦手な人は無理かもしれない

僕はそんな映画が好きなので
この映画もかなり好き

バレエが題材の映画ですけど
全然華やかな作品ではなく
むしろ、主人公の鬱屈とした内面が映し出されていて
かなり暗い作品です


この映画が面白い部分は
精神的に崩れていくニナの姿だと思います

真面目で努力を積み重ねることで能力にも秀でているニナなんですが
だからこそ芸術表現に達することができない

そんな彼女が足掻いて崩れていく姿を
ホラー的に表現していて
人間の暗い部分や鬱屈したものを上手く表現しています

例えば
鏡に写る姿が微妙にずれたり急に違う動きをしたりするのはゾクッとさせられるし
壁にかかっている絵の目が動くみたいな
気付くか気付かないかの微妙な動きには
違和感や気持ち悪さを感じさせられる

それに、所々にあるちょいグロいシーンの数々も
不快感を煽っていきます
ささくれを剥きすぎてしまう場面は痛すぎる

終盤になるとジェットコースターのような怒濤の展開で
現実か妄想かわからないものが次々と押し寄せてくる
このへんからは普通にホラー映画ですよね

顔面をグサグサとぶっ刺したり
脚がボキボキと折れたり
痛いシーンが多いし気持ち悪いシーンも多い

ここはものすごい勢いがあって盛り上がります
なんかハイな気分にもなってしまう

主人公のニナもこのあたりはどこかハイになってるように見えますし


そんなホラー表現はとても面白く観れました
ホラーとしても面白い表現が多かったです

 

で、この映画は
主人公ニナが「白鳥の湖」のプリマに選ばれることによって
そのプレッシャーに押し潰され崩れていく姿を描いた
ネガティブな内容の映画ではあるんですが

そんなニナの姿を見てると共感でき感情移入もしてしまい
どんどんと引き込まれていく

そして、最終的にはただ彼女が崩壊してしまうというバッドエンドではなく
カタルシスを感じれ
ある意味ハッピーエンドのようにも思える映画だったりもします


まず、ニナはとても人間らしい人間です

典型的な真面目な人間で
真面目に努力を重ねることで実力も伴っている人
努力を続ければ成功を掴めると信じて疑わない人なんですよね

だからこそ、努力だけでは手が届かないものがある
むしろ、その真面目さが仇となり
思うように認められることもできない

そんな現実を突きつけられることで彼女の精神が崩れていく

それと同時に彼女が今まで押さえ込んできた闇の部分が溢れだし
どんどんと加速して崩れていきます


そんな精神が崩壊していくニナには
少し共感できたりもしました


真面目に必死に努力を続けていても
それを横目に
自由奔放で楽観的な人が簡単に追い抜いていったりしますもんね

本作の場合も
ニナとは対照的なリリーというキャラが登場します

リリーはニナとは全く正反対の
ちょっと不良な雰囲気のギャルって感じ
男性経験は豊富そうだし悪いことも知ってそう
パリピみたいな女

ニナはそんなリリーと出会うことで
嫉妬や憧れ、主役を奪われるのではないかという危機感などを抱いてしまう

リリーの存在がニナにとってはかなり大きくて
彼女が壊れていく原因の1つでもあります

実際は全てニナ目線の話なので
本当のリリーはどういう人間なのかははっきりしませんけどね


自分に無いものを持っている人が目の前に現れると
自分を全否定された気持ちになったり焦りが生まれたり
そして、自分を見失っていく
他人に囚われることで本来の自分がわからなくなってしまうんですよ

そんな気持ちはすごくわかる
相当な自信家でない限り誰しもがそんな経験をしてるんじゃないでしょうか

 

他にも
母親に縛られそれが原因で男性経験もなく
それゆえに自信の持てないニナ
これもなんか共感させられます

親って
例え良い親であっても悪気なく子供を縛っていたりする
ニナの場合も
母親はそんなに悪い人間ではないですが
自身のコンプレックスや娘への嫉妬などで
娘を縛ってしまっています

親の束縛からはいつか解放されなければならないけど
抜け出したくても抜け出せない状況は
すごく理解できますよね
親が自分のことを思っていれば思っているほど
抜け出すことができない

その上、自分が娘を妊娠したことでバレエを諦めた
ということがあり
ニナの異性関係にすごく厳しかったりする

その結果、ニナは男性経験がなく
それが自信の無さに繋がっていき
バレエの主役を演じることにも影響が及ぼされていきます

そういう劣等感の抱きかたもとても共感できてしまって
いつの間にか自分を見てるかのような気持ちになってくる
すごく感情移入させられていました


そして、問題のラストですが

これは人によって捉え方が違ってきますよね
単純に見ればバッドエンドっぽい終わりかたですが
見ようによってはハッピーエンドに思えなくもない
とは言え、ネガティブな印象なのは否めないラストです

そもそも、ニナが「白鳥の湖」の主役に抜擢され
それがきっかけでニナの精神が崩壊し狂っていく姿を
ホラーテイストで描いている作品なので
単純に悪いことが起きて悪い方向へ進んでいく
とてもネガティブな映画にも受け取れるんですが

よく考えてみると
ニナが主役に抜擢されたことは
はたして悪いことがだったのか?
と思うんです

これって成長のきっかけだと思うんですよ
主役に選ばれたのは成長するチャンスで
さまざまな葛藤により精神が崩れて狂っていくのは
成長の過程のようにも思えてくる


今の自分の環境やコンプレックスと向き合い
それを変えようと必死にもがいている
それの現れが鏡の中の自分だったり
リリーの存在だったり

そして、最後には幻想の中のリリーと退治し
今までの自分を殺して本当の自分を解放する
それがラストシーンの達成感に満ちた表情と
完璧という言葉なんだと思います

最後はニナが死んだのかどうかが気になるところですけど
もし死んでいたとしても
あの達成感に満ちた顔を見ると
この瞬間に達することができた時点で
最高の人生だったんじゃないか
人生に悔いなんてないんじゃないか
って気がするんですよね

死んだかどうかをはっきりさせるのは
この映画に関しては野暮なのかもしれません


あと、ラストシーンは同監督作の「レスラー」にも
少し似てますね
ラストシーンで主人公が最高に輝いてるのは
両方ともに通じるものがあります

手ブレの映像で主人公を追うような撮りかたもすごく似てますし
「レスラー」と共通するものがたくさんあると作品でもありました

 

バレエ映画だと思い観てしまうと
バレエ描写が弱く主人公の精神面を強く描いた作品なので
ちょっと違うと思ってしまうかもしれませんが
人間の精神面を描いたホラー映画として観ると
とても面白い作品だと思います

ラストシーンのカタルシスは「レスラー」同様にすごく好き

共感できる部分がとても多く
これは自分のための映画なのかと思ってしまう

 


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