どうもきいつです
ドラマ映画「許された子どもたち」観ました
実際に起きた複数の事件をモチーフに
同級生を殺し無罪になった少年と
それを取り囲む社会の姿を描いた社会派ドラマ
構想に8年の歳月をかけられて完成した自主製作映画です
「先生を流産させる会」「ミスミソウ」などの
内藤瑛亮が監督を務めています
あらすじ
中学1年生の市川絆星を含む4人の少年たちは
同級生の倉持樹をいじめるうちに殺害してしまった
警察に犯行を自供した絆星だったが
息子の無罪を信じる母親の説得により否認に転じる
そして、彼は少年審判で不処分となるが
世間では激しいバッシングが巻き起こっていた
そんな中、樹の両親は民事訴訟を起こし
少年たちの罪を問うことを決心する
感想
目を背けてはいけないものをたくさん見せつけられる
罪を償うとはどういうことか
贖罪の機会を奪ってるのは誰か
無責任な正義ほど悪ではないのか
今の時代に生きているならば考えなければならないこと
前から観たいと思っていた映画
当然、いい気分にはならないだろうなとは思っていましたが
気分が悪くなるどころじゃなかった
気分が悪くなるよりも
現代社会で生きるには考えなければならない問題を
無数に突きつけられて
そして、最後にはその問題について
自分で向き合い考えなければならない
そんな映画でした
この映画は最後まで観ても
何かが解決するわけでもなく
答えも提示されない
すごくモヤモヤします
でも、何かしら答えは出さなきゃならないし
全ての人間がこの問題について考えなければならない
この映画で取り上げられている主なものは
いじめ
少年犯罪
ネットでの断罪など
単純に上げればその3つですけど
それらが複雑に入り組んでいて
そこにはいろんな感情や思いもあり
全く一筋縄ではいきません
簡単に誰が悪いとか原因はなにかは
決めることができない
本作の中心となるのは
同級生を殺してしまった中学生の少年、絆星が
その罪とどう向き合っていくのかが描かれています
しかし、この映画をラストまで観ても
絆星が改心して心を入れ替えるわけでも
彼が罪を償うわけでもない
モヤモヤしか残らないラストです
何か答えが見つかるような
甘っちょろい幻想なんかではなく
とにかく、この映画は現実を突きつけてくる
本作で重要なのは
人を殺してしまった少年がどうして誕生してしまったのか
という部分ではなく
罪を犯してしまった少年をきっけに見えてくる
社会の歪み、人間の愚かさ
そういうものです
確かに人を殺めてしまえば
例え少年であろうと簡単に許されるべきことではないですが
それを取り巻く社会、環境
そこにも罪はあるんじゃないのか?
ということをこの映画を観ると考えてしまう
それを最も感じるのは
罪を犯してしまった少年から
罪を償う機会を奪ってしまうということ
許されてしまう事で赦しを得ることができなくなる
それが本作での一番の問題提起です
例えば絆星の母親は
息子を信じ幸せを願うがゆえ
彼の犯した罪を認めず彼の贖罪の機会を奪います
しかし、これは決して悪意があったり
罪から逃れようとしているわけではなく
息子を愛しているから信じているから
なんですよね
ただ、この母親は罪深い
彼女の行いのせいで
完全に取り返しのつかないことになってしまったのは間違いなくて
1人の少年が当然背負えないものを
一生背負わせてしまうことになる
それ以外にも
裁判所や弁護士も彼から贖罪の機会を遠ざけてしまいます
映画を観ている側からすれば
事の真相を全て知っているから
弁護士や裁判の判決などを見て腹立たしくも感じるけど
実際この人たちはただ仕事をこなしているだけで
何も悪いことなんてしていない
ただ、これもやっぱり罪深い
弁護士は勝つことが仕事だからそうするのは仕方ない
でも、それのせいで少年は完全に道を見失ってしまうわけです
そういうのを見ると
社会のシステムの歪みも見えてきます
この映画を観ると
例え無理やりにでも罪を償う事ができるということはどれだけ幸せなことなんだ
とさえ思えてしまう
特に中学生くらいの子供なんて
罪の重さなんかはさほどわかっていなくて
だから嘘をつくし同じ過ちを繰り返す
そこを導かなければならないのが
大人や社会のはずなのに
その大人や社会が罪を償うチャンスを奪ってしまう
その結果が
許された後の絆星の日常です
世間からバッシングや嫌がらせを受け
普通の生活なんて送れなくなる
という部分もありますが
最も重要なのは絆星の心で
許されてしまったことで
自分自身の心の中の闇を払えなくなってしまう
どうすれば赦されるのか
罪とは何なのか
自分のやってしまったことと世間がやっていることは何が違うのか
1人の子供の頭では到底解決できないようなものを背負い
それを先延ばしにして生きて行くしかない状況
そして、この映画はそれを抱えたまま終わっていきます
彼の将来には不安しかないし
いい方向に進むとは思えない
でも、終盤の絆星の暴走
これを観たときは少し彼に感情が戻ったように思えます
初めてここで自分の罪と向き合ったのかもしれない
このシーンがあるだけで
彼の人生は完全に終わったわけではないと感じれました
そしてもう一つ重要な
いじめやネットでのバッシング、必要以上の追い込み
これは現代社会の最も深い闇で
解決しなければならない問題
現在進行形でSNSの誹謗中傷問題なんかも話題になっていますが
こういう問題の厄介なところは
いじめてる人間やネットで誹謗中傷を描きこんでる輩は
それを悪いことだと思っていないところ
むしろ、奴らは正義の名のもとに悪を断罪しているつもりでいる
特にネットなんかは…
この人たちは罪の意識なんて全く無く
罪に問われることも無い
しかし、こいつらは完全に悪で
それを野放しにしている今の現状は
かなり危険だと思います
実際にそれによって社会が明らかに歪んできている
命を奪われてしまっている人だっているんですよ
この映画の中でも
いじめられる側にも原因がある
犯罪者は断罪されるべき
という理由でいじめ、バッシング、嫌がらせが行われ
最終的には殺人未遂の暴力まで発展する
そんなのを見せつけられていると
コイツらと犯罪者の違いって何なの?
と思えます
理由さえあれば人を傷つけても許されるのか?
そもそも
正義を振りかざして誰かを裁こうとしてるけど
お前らに何の権限があるんだよ
関係ないじゃん
こんな奴らの言っている正義なんかには
責任なんて全く伴っていなくて
ただ誰かの罪を裁いている風の
正義の味方になったつもりで
自分の欲望を満たしているだけ
そんなのただの悪人と言っても過言じゃない
無責任な正義ほど厄介な悪はないと思いますよ
ここまで、本作で提示されている問題について
いろいろと言いましたが
こんなにも考えさせられるのは
本作がとてもリアルだからです
暴力描写なんかは生々しく痛々しい
はじめの殺害シーンは目を背けたくなるほど
そんな場面を避けずにしっかりと描くことで
作品に重みが生まれ
よりリアルに感じれます
もちろんフィクションの作品ではありますが
実際の事件などをかなり参考にして作られていて
おそらく、それらの事件でのエピソードなども
取り入れてると思います
エンドロールに流れてくる参考文献の多さでも
それをうかがえる
これを見れば如何に現実の問題を
リアルに観客に伝えようとしているのがわかりますよね
そして、実際にとてもリアルに伝わってきて
自分たちもその問題に向き合わなければならないという気持ちにさせられる
演技の面でも本当にリアルで
特に主人公である絆星を演じている上村侑
彼の演技は本当にリアル
主人公と同年代でありながら
よくあんな演技ができますよね
表情なんかも絶妙な顔しますもん
不処分が決まったときの顔とか気持ちがゾワゾワとさせられた
わかりやすく表現してるんじゃなくて
今どんな事考えているんだろう?
こんな気持ちなのかな?
みたいに表情からいろいろと深読みさせられてしまいます
普通に絆星が怖くすら感じてしまいました
少年だからこその掴み所の無さとか
他の人たちの演技もすごいと思ったけど
特に上村侑がものすごく印象に残りましたね
この作品に携わった子供たちは
何ものにも代え難いものを得ていると思います
少なくともネットで馬鹿なことを書きこむような
大人には成長しないでしょう
本作を観ると
目を背けてきたような痛い現実を
これでもかと突きつけられます
だからこそ、たくさん考えさせられる
他人事ではなく
自分も向き合わねばならないという気持ちにさせられる
この作品が現代社会の歪みについて
考えさせられるきっかけになると思います
ただ、これについて1番考えなきゃならない馬鹿な奴らほど
この映画を観ることすらしないんだろうな…