どうもきいつです
ドラマ映画「ある画家の数奇な運命」観ました
現代美術界の巨匠ゲルハルト・リヒターをモデルに
ドイツの激動の時代を生きた芸術家の半生を描いた作品
「善き人のためのソナタ」などのフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルクが監督を務めています
あらすじ
芸術を愛する叔母の影響でクルトは芸術に興味を抱く
彼は精神を病んだ叔母は安楽死政策殺されるというつらい過去を抱えていた
そんなクルトは美術学校に進学しエリーと恋に落ちる
しかし、エリーの父親は
かつて叔母を死に追いやったナチ党の元高官だった
感想
とても長い映画だけど最後まで退屈せずに観れました
内容も興味深くていい映画だと思う
でも、全体的にふわっとしたストーリーで
ちょっと薄い印象だったのは否めない
前から少し気になっていた映画でしたので観てきました
本作のモデルとなっているゲルハルト・リヒターについては知りませんでした
現代美術の世界ではすごく有名な人らしいです
あまり現代美術には詳しくないので
正直この人のことは全然知らない
現代美術の作品を観ることは好きなので
もしかしたらどこかで作品を観たことはあるかもしれません
ただ深掘りしていないので作家の名前とか作品の意図とかは全然わからない
そんな感じで
知識がなく本作を観てきたわけですが
190分とかなり長い映画ではあるものの
最後まで飽きずに観ることができました
長い映画ですけど
退屈はしなかったのでそんなに疲れもなかった
そこはやっぱり興味を引く題材とストーリー
だったからなのかもしれません
この映画で描かれている
芸術についての考え方はとても面白いです
本作を観て最も思うのは
芸術作品と言うものはその作者そのものだということ
例えば
たった10秒で描かれた絵があるとして
その絵は10秒で完成した絵なのかどうか
ということなんです
本作では
主人公のクルトが自分の作品作りに試行錯誤し思い悩みます
自分が表現したいものは何なのか?
本当に素晴らしい作品はどんなものなのか?
そこが見つからずに苦悩する
そして、最終的に
映画のラストでは芸術家として成功するわけなんですが
その成功した理由が
さっき言った例えなんですよ
如何に奇抜な事で注目を集めるかの現代美術の世界において
クルトは様々なアイデアを絞り出し
芸術家として成功するために奮闘しますが
この時に完成する作品は
さっき言った10秒で描かれた絵みたいなものなんです
例え1つの作品に何日も費やそうが
逆に一瞬で完成しようが
その作品に込められてるものは
そんな製作期間だけの刹那なもの
そういう作品には深みなんてないんだろうと思う
現代美術を商品としてみなすなら
そういう要因以外にも重要なものはありますが
そこは今回はスルーで…
で、クルトが最終的に生み出した作品
これも今までに作られた作品と印象的には変わらないと思います
さっきも言った10秒で描いた絵みたいなもの
ただ、クルトが最終的に行きついた作品は
クルトの人生そのものでもあるわけです
やってることは今までの現代美術と
さほど変わらないようなことではあるけど
その作品には深みがある
例え10秒で描かれた絵があったとしても
それはその人の人生の長さプラス10秒の絵
なわけなんですよ
本作でのクルトの場合は
30年の人生を末に出来上がった作品
この映画の3時間以上の長さや
その中で描かれる淡々としたクルトの人生
そういうものが最終的に芸術にとっての重要な要素の現れになっていると思います
本作は若干内容がふわっとしていて
掴み所の無い物語で支離滅裂なようにも思うけど
それがある意味
1人の人間の人生を感じさせてくれて
人生の深みが生まれていると思う
どうでもいいような描写も多いけど
そんなどうでもいいようなことも含めて人生で
芸術作品の深みでもあると思うんですよね
よく芸術作品って
如何に上手いか、技術が優れているか、奇抜な発想なのか
という部分に注目されがちだけど
そんな要素って結局は表面的なもので
善し悪しを決める判断材料の1つでしかない
最も重要なのはその核で
作品に何を込めてるのかが重要なんだと思うんですよ
これは美術だけではなくて
映画、漫画、音楽、小説など
どんな作品にも同じことが言えると思う
売れる売れないはまた別の話ですけどね
そんな感じで
芸術についての面白いメッセージが込められた映画ではあるんですけども
ちょっと印象が薄い映画でもありました
なんかパンチが弱いというか…
いい映画だとは思うんですけど
これといったインパクトが無かった気がする
さっきも言ったんですけど
この映画はすごくふわっとしています
掴み所がなくて何を言いたいのかあまりわからない
抽象的な描写も結構多いです
それが人生の深みを生んでるのは間違いないとは思うけど
ただ、物語の中心に柱があった方がよかったと思う
この映画って場面によって中心がすごくブレるんですよ
ラブストーリーっぽくなったり
サスペンスっぽくなったり
コメディーっぽくなったり
ナチスがどうとかみたいな話になったり
で、それらにあまり一貫性がないように思うんです
クルトが全く登場せずに
クルトの恋人の父親が主人公みたいになってる場面もありました
ここはメインのテーマからちょっとズレてる気もします
本作は芸術をテーマにした映画のわりに
クルトの人生の中でそこまで芸術を中心に描いていない
そのせいで他の要素もまとまっていないんだと思う
どんなにどうでもいいドラマを描こうとも
芸術に向き合うクルトの姿を中心に描いていれば
最終的にラストに向けて繋がっていくと思うんですよね
特にラブストーリなんかは
ただの妊活物語になっていて全然芸術とは関係ない
実際、クルトが芸術に向き合っているのを感じさせられるのは
ラストスパートに入ってからなんです
序盤からクルトが芸術に向き合う姿を
深く描くべきだったと思いました
芸術に向き合うクルトをストーリーの柱にするべきだった
あと引っかかる部分が
フィクションなのかフィクションでないのか
この映画の曖昧な作り
モデルとなったゲルハルト・リヒターと
人物の名前は変えて、何が事実か事実でないかは、お互いに絶対に明かさないこと
というよくわからん契約のもと作られているようなんですが
その制約のせいで
結局、この映画ってどういう見方をすればいいのか曖昧になってると思うし
ただでさえふわっとした内容が余計にふわっとしてしまってる気がする
そこにミステリアスさを感じるのかと言えば
特にそういうものも感じれない
なんか中途半端なんですよね
これを実話だと言いきってくれれば
そこにリアリティを感じれただろうし
完全なフィクションなら映画としてもっと劇的な作風にできたかもしれない
この映画の印象の薄さは
この曖昧な作風のせいじゃないのかな
とも思いました
インパクトが無くて印象の薄さは否めないけど
芸術をテーマに描かれた作品としては
なかなか興味深くて面白いと思わされました
地味な上にめっちゃ長い映画ではありますが
あまり退屈はしないと思うし
最後まで面白く観れるとは思います
名作とまではいかないけど
良作の映画ですかね