どうもきいつです
ドラマ映画「サウダーヂ」観ました
映像制作集団「空族」による作品
土方やラッパーの青年、在日外国人などを中心に
不況と空洞化の進む日本の地方都市を描いています
監督は冨田克也
出演するのは鷹野毅、伊藤仁、ラッパー田我流などです
あらすじ
山梨県の甲府
日系ブラジル人やタイ人など多くの外国人が過酷な条件のもと働き暮らしていた
そんな中、ヒップホップグループのメンバーである猛は
派遣で建設現場の作業員として働き始める
そこで土方一筋で生きてきた精司やタイ帰りの保坂たちと出会うのだった
感想
定まったストーリーはなく淡々とした映画だけど
この映画の中で生きる人々の姿を見ていると
どんどんと映画の中に引き込まれていく
コミカルであり切なくもあり
哀愁とやるせなさを感じさせられました
本作はDVDなどのソフト化されておらず
なかなか観ることが難しかったんですが
再上映されるということで観に行ってきました
正直、面白い映画なのかと言うと
どうなのかな…?
って映画ではあるんですが
3時間近くの上映時間は最後まで退屈せずに観ることができました
わかりやすくストーリーがあるわけではないし
最後にカタルシスを感じるわけでもない
それに淡々とした平坦な映画でもあります
なのでエンタメ的な楽しさのある映画ではありません
ただ、この映画はとてもリアル
リアルな人間たちが描かれ
リアルな社会問題が描かれている
舞台となる甲府のリアルな人間たちの日常を覗き見しているような感覚で
それがこの映画の面白さだと思います
リアルだからこそ
人々に感情移入できるし
日本の社会問題について考えさせられます
それに、この映画には自分と重なる部分も感じれて
なんか胸が苦しくなるような気持ちにもさせられました
この作品の特徴としては
全く何も解決しません
例えばラッパーの猛は
ラッパーとして大成するわけでもなく
そもそも何かを目指し動き出すことすらしない
最終的にどうしようもない感情を爆発させ殺人を犯してしまうけど
それがきっかけで何かが変わるのかと言うと
そうでもなく
最後までモヤモヤしたものが残ります
土方の精司にしたって
妻やタイ人のミャオとの関係性はほぼ進展せず
最後に妻と離婚しミャオとタイへ行くなんてことはなくて
彼の物語も中途半端に幕を閉じます
その他
街の様々な人間たちの日常のワンシーンが脈絡なく見せられたりもして
それらが繋がってたり繋がってなかったり
そこに何かしらの答えが用意されているわけでもない
この映画を観てスッキリさせられるものなんて無くて
とにかく全てが消化不良
気持ちよさの欠片もないんですよね
ただ、このカタルシスの無さは
現実世界とこの映画の世界とが地続きで繋がっているようにも思わされます
本作の登場人物たち
猛や精司、在日外国人たち、それ以外の人々
みんな迷路に迷い込み右往左往しているような状態
出口の場所なんて検討もつかず
それでもひたすら出口を探してさ迷っています
そして、この映画が終わっても
まだこの人たちは
ひたすらにさ迷い続けているんです
そこが現実的と言うか
自分の生きている世界との繋がりを感じる
それだけでなく
自分自身も映画の登場人物たちと同じく
何かに縛られ抜け出せない迷路をさ迷っているのかな
と共感させられる部分もあります
それぞれの人間たちが
閉塞的な場所でもがき苦しんで
それでも生きていこうとする姿には痛々しさすら感じてしまって
観ていて辛かったりもします
この映画には夢も希望も無いのかもしれませんね
でも、それが現実でもあります
そんな残酷で現実的なものを痛感させられました
この映画で描かれているものは
自分の未来の姿なのかもと思わされるたりもした
そして、この映画のポイント やはりタイトルでもある“サウダーヂ”
この言葉の意味は「郷愁」「憧憬」など
本作の登場人物たちはそれぞれの“サウダーヂ”を思い描きながら
必死に足掻いているように思えました
本作での“サウダーヂ”は“自分のいるべき場所”という意味合いもあるのかなと思います
みんなが“自分のいるべき場所”を追い求めて
そこに思いを馳せている
そして今いる場所は自分の居場所ではないと思っています
もはやそれは妄想や幻想でしかないのかもしれないけど
それがないとやってらんねーな
というのもまた事実
で、この映画では
そこに対する答えも全く無くて
努力すれば今の場所から抜け出せるのか?
今の居場所で最善を尽くし生きていくべきなのか?
そんな疑問に対する回答は得られません
ただ、底辺で生きるしかなかろうが
現状から抜け出せなかろうが
結局は生きていくしかなくて
本作の登場人物たちのみっともなくも足掻いて生きている姿を見ると
これが残酷な現実だということを突き付けられ
そんな人たちを見ていると
だからこそ覚悟を持って自分も生きていかなければならないのかな
と思わされる
全体的に明確なストーリーはなく
断片的な人々の日常を見せられるような映画なので
つまらないと思う人も多いかもしれません
万人ウケの映画ではないかもしれない
ただ僕には
本作で描かれているものがとても心に刺さったし
自分自身の生き方を改めて見つめ直させられた気がします
そんな作品なんですが
ただ暗くて重いだけの映画でもなくて
滑稽でコミカルなシーンも多々あったりするので所々笑わされたり
カッコよくて魅力的な場面もあるし
ストーリーに引き込まれるという部分は
この映画にあまり無いんですけど
それぞれの場面には引き込ませる力がとてもあって
目が離せなくなるんですよね
猛がラップをしながら歩く場面なんて
すごくカッコよくて見入ってしまいましたし
終盤の精司が賑わった街中を歩く場面とかはめっちゃ良いんですよ
ここでの賑わいは決していいものではなくて
ちょっと治安の悪さとかも感じるけど
そこには間違いなく活気があって
人間が生き生きと暮らしているということも感じられます
そして、その賑わいからの静まり返ったシャッター商店街で
この賑わいが過去のことだと気付かされる
この場面を見ると
普段は不快にしか思ってないうるさいバイクの音ですら
そこに哀愁を感じさせられるんですよね
エモいって感じ
かつての輝かしい時代というものを
この場面でとても上手く表現されていたのではないでしょうか
映像の見せ方が上手いのか
場面場面がとても魅力的で
特別に面白いと言うわけではないんですけど
ずっと見続けれてしまう
それが本作のすごさなのかもしれません
最後まで観ても気持ちよさのある映画ではなくて
万人が楽しめる作品ではないと思います
でも、僕は
本作の登場人物たちの痛々しく生きる姿にいろんな感情を湧かされました
どんな境遇でどんな現状に置かれ
たとえ報われない生き方しかできなくても
とにかく、がむしゃらに生きていくしかないのかもしれない
そんな風に思いました